これは、夏目志郎氏さんのエピソードです。
昭和20年生まれの夏目志郎氏は、
中国から日本に来日してフルコミッションセールスに就きます。
扱っていた商品は、米国系の能力開発プログラムでした。
実は、この夏目氏が日本における代理店第1号だったのです。
夏目氏は中国訛りのわかりにくい言葉でありながら、
個人セールス部門でなんと6年連続世界一という偉業を成し遂げ、
当時「奇跡のセールスマン」としてマスコミにもたびたび取り上げられました。
その夏目氏のオフィスには、
一枚の、真ん中に穴の開いたレコードジャケットが飾られていました。
気になっていた私は、あるとき夏目先生に、
どうして穴の開いたレコードが飾られているかを聞いてみました。
すると夏目先生は
「これは、私のセールスの象徴なんだよ」
と静かに微笑みました。
以前、
プレゼンテーションを終えてクロージングも一通り終了したところで、
見込み客がこう反論してきたそうです。
「夏目さん、このプログラムが大変素晴らしいことはわかりました。
あなたのことも信頼できますし、この金額なら支払うこともできます。
唯ひとつだけ、このレコードの形が気に入らないのです。
(当時プログラムの媒体はCDではなくレコードだったそうです)
もしこのレコードが四角なら、すぐに採用するでしょう」
さあ、あなたならこの反論をどうしますか?
「目的と手段」を意識して
夏目先生は静かにこう言ったそうです。
「なるほど○○さん、よくわかりました。形が気に入らないのですね?
それでは、あなたの大切なレコードを一枚貸していただけますか?」
そう言って、一枚のレコードを受け取ると、
おもむろに真ん中にボールペンを突き刺しクルクルと回し始めました。
そして、ビックリしている見込み客に向かって
「○○さん、よくご覧下さい。四角いレコードジャケットを回すとどんな形になりますか?」
「丸ですね」
「そうですよね。四角いレコードも回せば丸くなります。
○○さん、あなたにとって大切なのは外側の形ではなく、内容なのではないですか?」
「なるほど、よくわかりました。では買わせていただきます」
その後、穴を開けたレコードと同じものをプレゼントして、
そのレコードは自分のオフィスに飾ったのだそうです。
by sabamiso
夏目先生は、最後に私にこう言われました。
「見込み客は」よく『目的と手段』を混同します。
この方にとって目的はプログラムの内容を知ることであって、
(当時は現場での成果より知識が目的でした)
レコードが欲しかったわけではないんですよ。
実は本人もそのことを知っていたのですが、あえて私を試したんですね。
私たちセールスマンがこのことを忘れてはいけませんよ。
私たちの目的は
見込み客に素晴らしい情報を与えることであって、売ることを目的にしてはいけませんよ
それ以来、胸に刻み、私も常に「目的と手段」を意識して今日に至ります。